人助けの男 第17話「公園の芸人」 キーンコーンカーンコーン・・・・・・ 6時間目の終わりのチャイムが校内に鳴り響き、クラス中の生徒が終わったぁという言わなくてもいいようなことを口にする。見慣れた風景である。 そのうち先生がやってきて終わりの挨拶で今日の学校は終了だ。 「今日は助っ人部の用事も無し。ちゃちゃっと家に帰れるな。」 「お、ヤスもか!俺も用事無いんだぜ!放課後どっか遊びにいかねー?」 そんなことを柳沢と喋っていると友恵が近づいてきた。 「あんた達、今日掃除当番でしょ。浮かれてないで掃除しなさいよ。」 ・・・・・・俺と柳沢の顔が一気に曇る。 「あぁ・・・・なんだろうな。なんていうか掃除は別に構わないんだけど、天から地に落とされたっていうか、新しい靴を買って喜んでたら次の日雨だった感じとか・・・・」 「柳沢。言いたいことは分かる・・・・。さっさと教室の掃除をするぞ・・・・。」 俺と柳沢、他数人で教室の掃除をした。掃除をし終わった頃には友恵の姿はどこにもなかった。1年の頃はあいつが無理矢理編入してきたこともあり、掃除の班も一緒で同じ時間に帰る事が多かったが、2年に上がってからは違う班なので、掃除のある日はいつも先に帰ってしまう。薄情な奴だ・・・・・・と言っても俺を待つ理由も特も無いと思うが。 「友恵ちゃんは帰っちゃったみたいだし、どこ行くかねー。」 掃除の時のローテンションからは脱却したものの、まだ本調子に戻らない柳沢が気の抜けた声で言った。 「またツクモにでも行くか?」 「いや、今日はゲーセンって気分じゃないな。・・・・・・そうだ!いっちょ公園にでも遊びに出かけてみねーか!?」 閃きに伴い一気にテンションが引きあがった柳沢。忙しい奴だ・・・・。 「公園ね・・・・。まぁいいんじゃない?」 特に異論も無く、柳沢の提案に乗っかる俺。しかし公園で何するつもりだ。 学校を出て俺たちが向かったのは学校からそんなに遠くない場所に位置する「丘科公園」。活尾武市の中心、丘科町の名前を取って付けている通り、市で一番の広さを誇る自然公園だ。 「ここに来るのも久しぶりだなー。中学の頃、自転車でここまで来て遊んで以来か。」 「そうか。ヤスの家からここは遠いんだよな。俺は2駅ぐらいだからほとんど地元だぜ?」 「2駅は地元じゃないだろ。まぁ俺に比べれば近いだろうけど。」 俺の家から自転車でここまで来るとなると、余裕で1時間以上はかかってしまう距離だ。まぁ2駅ぐらいなら25分ほどで着くんだろうが・・・・。 「で・・・・。公園に来て何するんだ?」 あえてここに来るまで言わなかった疑問を今ぶつけてみる。 「普段あまり体を動かさなくなった俺たちだ。ここは目一杯体を動かそうぜ!」 「・・・・・・体動かすって、どんな?」 まさか公園内のジョギングコースを走るとか言わないだろうな・・・・。今日は体育の授業も無かったので着替えは無い。学生服一丁だ。まぁ、柳沢も同じ条件なので汗をかくことはあまりしないだろう。 しかし柳沢の回答は俺の予想の斜め上をいっていた。 「鬼ごっこやろうぜ!」 「( Д )」 「顔文字で返答するなよ!リアクションに困るだろ!?」 「こっちがリアクションに困ったから苦肉の策の顔文字だ!!」 「大体、顔文字ってどうやって喋って表してんの?」 「いや・・・・、普通に顔の表現だろ・・・・。・・・・ってそんなことはどうでもいい!鬼ごっこは無いだろ鬼ごっこは!俺たち、もう高校生だぜ?」 「チッチッチ・・・・そういう偏見はいけないぜ・・・・ヤス!高校生が鬼ごっこして何が悪い!」 自信たっぷりに言い放つ柳沢。もちろん悪いわけなど無い。だが今回のケースはそういうことではない。 「あのな、柳沢。さすがに恥ずかしいだろ?しかもわざわざ公園に来てまですることか?大体2人で鬼ごっこってつまらなくね?それに――――」 「わかったわかった!鬼ごっこはやめる!・・・・じゃあ何やるんだよ?反論するからには何か案があるんだろうなー!」 そんなものは無い。鬼ごっこをやるのが嫌なだけで、他にやることなど思いつかない。 「はぁ・・・・。何か遊ぶ物があればなぁ。」 「あっちのグラウンドで中学生ぐらいの奴らが野球してるぜ。混ぜてもらうか?」 「俺たちも道具持ってなきゃ参加できねーだろ・・・・。」 「あっちの方で小学生がサッカーやってるぜ。混ぜてもらうか?」 「さすがに小学生に混ざるのは勘弁願いたいところだろ・・・・。」 「あっちの方で老人達がゲートボールやってるぜ。混ぜてもらうか?」 「ルールわかんねぇよ・・・・。」 「そこのベンチに座ってくつろいでる男の人がいるぜ。隣に座るか?」 「おぅ!そりゃいいな!・・・・ってバカ!座るかっ!!」 なんとなくノリ突っ込みをかます俺。自分でもちょっと寒いことを自覚してやっていたが・・・・ パチパチパチパチ どこからともなく軽い拍手が聞こえてきた。音のする方向に目をやるとベンチでくつろいでいる男の人が手を叩いていたようだった。 「なかなか良いツッコミをするな、少年。」 俺と柳沢が頭に ? を浮かべていると、男の人はそう言った。よく見るとベンチの男の人は結構歳をとった感じだった。 「えーと・・・・、俺ですか?」 俺はベンチの男・・・・中年に話しかける。 「そうですとも。そしてこっちの君は良いボケだった。まさかあの話の流れでベンチに座っている男・・・・つまり私に目を向けるとは。良いセンスだ。」 何かよくわからないが、どうやら俺と柳沢はギャグセンスを褒められているようだった。一応、褒められているので悪い気はしないが、一体この中年、何者なんだろう。 「あの~・・・・失礼ですがあなたは?」 「私はしがない芸人だ。」 「へぇ~芸人さん!?すっげー!有名人?有名じ・・・ドゥフ!!」 柳沢がうっとおしい感じではしゃぎ始めたので、とりあえず肘でわき腹を小突いた。しかし、こんな時間にこんな公園のベンチに座っている男だ。芸人と言ってもあまり売れているとは思えない。 「ところで君達は学校の帰りかな?」 「はぁ・・・・そうですね。」 「この公園にはよく?」 「いや~!今日は俺の機転でたまたま来ただけっすよ!」 芸人 という言葉に舞い上がっているのか、よく素性のわからない人間に気軽に接する柳沢。 「そうか。この公園、私はこの時間帯によく訪れるんだが・・・・良い所だ。仕事に疲れてベンチで休んでいると、学校終わりの子供達の元気な声が聞こえてくる。緑もたくさんあって、こんなに素晴らしい場所はなかなか見つからないものだ。」 口調はゆっくり穏やかだが、テンポ良くこの「丘科公園」を褒めちぎる芸人さん。それに今の発言からすると、疲れるほどの仕事はあるらしい。だがこの顔、テレビでは見たことが無い。 「良い所っすよね!俺、ここ地元で結構遊びに来てたんっすよ!高校入ってからはそんなにだけど。」 「まぁ、立ち話もなんだ。君達も座ってほしい。」 「じゃあお言葉に甘えて。ほら、ヤスも座れって。」 芸人と言っても知らない人に変わりは無いし、個人的にはあまり乗り気で無かったのだが、ここで空気を悪くするのは俺の生き方に反するので、しぶしぶベンチに腰をかける。 「・・・・・・私は今日、偶然君達に話しかけた。キッカケはさっきのノリ突っ込みだったが・・・・普段はこういう風に話しかけはしない。だが、君達には何か・・・・何かを感じる。最近、何かこれといった面白い出来事は無かったかな?」 面白い出来事・・・・ね。芸人としてネタに困っているんだろうか。 「そうっすねー。別に最近ってわけじゃ無いんすけど、助っ人部っつー部活を始めたんすよ!」 あろうことか柳沢が助っ人部の事を話題に上げた。別に良いが、果たして面白いことなのか、それ。 「助っ人部・・・・?それはどんな活動をする部活動だ?」 「そりゃあ、助っ人をする部活っすよ!あ、ちなみにこいつが部長で俺はただの平部員なんで、詳しい話はこいつに!」 なんというキラーパス。俺にこの話を面白くしろというのか。後で覚えてろよ柳沢・・・・。 仕方が無いので2月に起きた一大イベントの話や、すっかり雑用部になった今の状況をできるだけ面白くなるように話してみた。・・・・・・面白い自信は無いが・・・・。 「なるほど・・・・。」 話し終わった後、芸人さんはそう呟いただけだった。やっべーよ、これ!芸人さんの面白の琴線に触れなかったっぽいよ! 「・・・・・・・・面白いな。」 「えっ?」 今、なんか面白いとか聞こえたような・・・・。 「話としては普通な感じだが、ネタとしては面白い。本当にそんな倶楽部をやっているのかね?」 話は普通だったけど、ネタとしては面白い・・・・・って。なんか複雑な感想である。 「えー、まぁ、ハイ。一応本当ですけど。」 もちろん創設理由などはぼかして話をした。人助けの神に関連する話もできない。なので追求されると結構困る話題なのだが・・・・。 「じゃあ助っ人部、部長殿に人助けをお願いしようか。」 「えっ・・・・なんですか?」 まさかこんな返答が来るとは思ってなかったので、少々面食らってしまった。 「私は今悩み事がある。その悩みを解決してくれないか?」 「芸人さんの悩みかぁ~。ヤス!これは全力で解決しようぜ!自慢できる!」 「はしゃぐなよ柳沢。・・・・で、その悩みというのは・・・・?」 「聞いてくれるかね。自慢ではないが・・・・私にはみんなが面白いと言ってくれる一芸がある。だが、それでいいのか。このままでいいのか?・・・・・・そう思うようになってきたのだよ。私ももう若くはない。この芸がウケなくなったら、私の芸人人生はオシマイなんじゃないか。・・・・・・これが私の悩みだ。」 また難問だ。こんなことをただの高校生に相談されても困る。しかし一度引き受けたからには、適当な答えを言うわけにはいかない。助っ人部部長なんていうどうでもいい肩書きは放っておくが、俺の持つ信条、プライドが適当な回答を許さなかった。 「・・・・そうですね。あまり大層なことは言えませんが・・・・、少しネガティブになりすぎだと思います。そんなネガティブな状態で芸を披露したら、それこそお客さんの 引き が来てしまうと思うんです。だから・・・・自信を持って芸をやるべきです!お客さんを楽しませたいという心があれば必ず・・・気持ちは伝わると思います!・・・・あと、プロの人にこんなこと言うのも変ですけど、一芸がウケなくなった時の保険を考えておくべきですよ!意外と話がうまいとか、博識だったりとか・・・・つまりキャラですかね?一発キャラとかじゃない、そういう・・・・なんか安定した感じの・・・・えーと、すいません、なんか。」 「・・・・・・・・そうか。いやいや、気にしなくて良い。いま君が言ったことは的確でいて、それに・・・・・よくわかっている。そうか。安定したキャラクターか・・・・。」 「えーと・・・・お力になれました・・・・?」 「・・・・・・ふふ・・・・ハッハッハ!ありがとう少年!おかげで自分に自信が持てた!」 「えっ、そうですか?そ、それは良かったです!」 「いや、本当に助かった。さすが助っ人部部長だ。安定したキャラクター。私はそれを持っているはずだ。心配することなど無かったな!」 「や、やったな!ヤス!芸人さん喜んでるぜ!?」 本当に喜んでるようで、満面笑顔の芸人さん。これでまた友恵のいないところでエネルギーが貯まったな。うん。 「ところで君達、高校はどこだね?」 「えと、私立丘科高等学校ですけど・・・・?」 「おお!?君達は私の後輩だったか!なら・・・・今度行って構わないかね!?」 「えっ!?う、うちの高校のOB!?っていうか学校に来る・・・・!?」 「そう、本当はいつでも言いといいたい所だが、生憎仕事がある。文化祭の日にでも呼んでほしい!」 「マジっすか!?芸人さんを文化祭に呼べる!?しかも俺達のコネで!?」 かなり興奮している柳沢の横で、心中複雑な感じの俺。だって俺この人知らないんだもん。文化祭に呼んでも逆に困っちゃわない? 「えーと・・・・本当に呼んでいいんですか?」 そう言った俺はこの後の芸人さんの発言に耳を疑った。 「いいですとも!」 「( Д )」←康孝 「( Д )」←柳沢 「ん?どうした、キョトンとして。・・・・おっと、もうこんな時間か!そうだ、連絡用に名刺を渡しておこう。」 名刺を渡すと「では!」と言って芸人さんは去っていった。しかし俺と柳沢は放心状態である。 「・・・・・お、おい、ヤス・・・・!」 「な、なんだ。柳沢・・・・!」 「ちょっ・・・・超有名人じゃねーか・・・・あの芸人さん・・・・!」 「あぁ・・・・いつもマスクしてるから顔がわからないのも当たり前だ・・・・。あの声、あの言い方・・・間違いない・・・・!!」 「「本物のゴルさんだぁぁぁぁーーッ!!」」 ・ ・ ・ ・ ・ ・ 「っていうかゴルさん、プライベートじゃさすがに ~ですとも 口調じゃなかったな。」 「まぁ・・・・そりゃそうだろ・・・・。うっわぁ~恥ずかしいぃ・・・・すっげーキャラ立ってる人にキャラクター云々言っちゃったよ・・・・。」 ≪超大物に偉そうなこと言ってしまった康孝は、その後数時間、顔が真っ赤だったという。≫ >>第18話に続く |