人助けの男 第16話「大西さんのおうち」 新入部員募集の張り紙を張った直後、世間はG・W(ゴールデンウィーク)に突入し、うちの高校も5連休となった。そういうことで、今のところ新入部員は入っていなかった。 しかしG・Wと言っても、うちはどこに出かけもせず、ゆったりとした休日を送っていた。父さんはまた海外出張なので家族揃って旅行ということもできないし、祖父母も両方とも既に他界しているので親の実家に出掛けることも無かった。それにこのシーズンは高速道路とか混むし、無理に出掛ける必要は無いと思うんだよなぁ。まぁ、うちに車は無いんだけど。母さんも免許持ってないし。 「康孝~。今日が何の日かわかってるの?」 突然友恵がこんなことを言い出した。 「何の日かって・・・・・、今日、5月6日は・・・・5月3日の憲法記念日の振り替え休日だろ?」 「そういうことじゃなくって・・・・、G・W最終日なのよ!明日からまた学校!」 「あぁ、そういうことな。今日は夜更かしできねーってことね。」 「もう・・・・どこまで馬鹿なのよ!せっかくのG・Wなのにどこにも出掛けないつもり!?」 「G・Wは逃げないよ。また来年も来るさ。」 「あんたね~・・・・、あたしの気持ちも汲みなさいよ。来年はこの 下 の世界にいないかも知れないのよ!」 ・・・・・・・・そういえば考えたことも無かったが、いつかは友恵も 上 に帰る時が来るわけで・・・・。そう考えるとG・Wにどこかへ出掛けたいという気持ちも分かる気がする。「記念に~」というヤツだ。 「出掛けるっつってもどこに出掛けるんだよ。今日が最終日なら日帰りになるぞ。」 ちなみに今の時刻は午前10時半。急げば日帰り旅行も可能だろう。 「そうね~・・・・。熱海・・・・はこの時間からじゃ無理ね。ここは身近なところにしましょ。」 「・・・・と言うと?錆礼神社にでも行くのか?」 「あのねぇ・・・・、それは身近っていうか、ただのご近所でしょ!」 「ただのご近所って・・・・一応徒歩30分もするんだぞ。」 「それに意味も無く神社になんて行かないわよ。人間的に言えば他宗だし。・・・・・・あ!」 「なんか思いついたのか?」 「たしか寺巫女ちゃんの家ってお寺さんよね?」 「あぁ・・・・なんかいつかの登場人物紹介で書いてあったな・・・・。」 「はいはい、メタ発言しないの。しかもHPだけ見てる人には理解できないから、それ。」 「ごめんなさーい。・・・・・で、なんだ?まさか大西さんの家にお邪魔しようって訳じゃなかろうな。」 「ここまで来たらもう、そのまさかしかないわよ。行ってみましょーよ!」 なんでG・Wに同じクラス(に新学年からなった)女子の家に遊びにいかなきゃならないんだ。たしかに同じ部活だし、接点はあるほうだが・・・・。 「連絡はどうするんだよ。ってか場所知ってんのか?」 「同じ部活の友達なら全員連絡先控えてるけど・・・・。あんた部長なのに知らないわけ?」 「実際、副部長のお前が実権握ってるだろうが・・・・・・。」 大西さんのお寺は、ここ活尾武市の隣の宇芽母(ウメボ)市にあるらしい。友恵が電話をしたところ、来ても良いと言われたらしく今から行くことになった。 いつも通学に使う私鉄活尾武線は活尾武市しか通ってないので、活尾武市の中心、丘科町の丘科駅から私鉄梅活(ウメカツ)線に乗り換えなくてはならない。 「いつも学校行く時は丘科駅で降りちゃうから、なんか新鮮よね~。」 ニコニコしている友恵。笑顔の女の子というのは、例え容姿が中の下であっても少し可愛いと思わせる物がある。だが確か俺以外の人は友恵が美人に見えてるはずなので、美人の笑顔というものが見れなくてちょっと悔しい。まぁ、それが友恵と言われると微妙なのだが・・・・。 なんだかんだ考えを廻らせているうちに、目的の駅に到着した。 「え~と、この近くよね。とうざいじ・・・・で良いのかしら。」 「何々・・・・、東西寺?まぁ、常識的に考えて とうざいじ だよな。」 「そうよね。・・・・あ、そこのお寺かな?」 友恵が指をさす方には結構大きいお寺が建っていた。 「結構でかいよなぁ、ここ。本当にここか?」 「あんた、ちょっと失礼じゃない?まぁ訊ねてみればわかるわよ。あ、あっちの門にインターフォンが・・・・。」 ≪ピーンポーン≫ 「はい・・・・、あっ、副部長!あと、中島君も。今行くね。」 恐らくカメラ付きインターフォンだろう。というか、こちらは一言も喋ってないのでそれしかない。ってか俺は あと ですか。まぁ、性別の差があるし、友恵よりも距離を取って接されるのは当たり前なんだけど。 「いらっしゃい、ひがにしでらへ。」 大西さんが木の門を開けて対応する。 「ごめんね~、突然来ちゃって!」 「やあ、大西さん・・・・・・って今なんて言った?」 「えっ?いらっしゃい・・・・しか言ってないけど・・・・」 こういう指摘をした場合、必ずといって言いほど少し的の外れた答えが返ってくる。大西さんも例外ではないようだ。 「いやいやいや、そこじゃなくて。いらっしゃい、のあとに言ったほうだけど・・・・。」 「あっ、うん・・・。ひがにしでら。とうざいじじゃないの。」 「ちょ、東西寺って書いてひがにしでらって読むのか!?」 「うん。ほらっ・・・あの有名な清水寺もせいすいじとは読まないでしょ?」 「それとはワケが違うような・・・・・・」 「いいじゃない、お寺の名前なんて。それより、早く入りましょっ!」 「どうぞどうぞ~。」 なんか妙にワクワクしてんなぁ、友恵のヤツ・・・・。大西さんも周りに俺たち以外の人がいないせいか結構喋っている。少数だと良く喋るタイプだったんだろう。 「2人とも、お昼・・・・まだだよね?よかったらうちで食べる?」 「食べる食べる!康孝も食べるわよね?」 「え?ああ・・・・、大西さんが良いって言うんなら頂くとするよ。」 やはり友恵は妙にはしゃいでいる。G・Wに遊びに出掛けたのがそんなに嬉しいんだろうか。 「いらっしゃい。もうみっちゃんのお友達が来るなんてお母さん嬉しくって・・・・」 門から入り、本堂の方へ行くと大西さんのお母さんが出迎えてくれた。 「みっちゃん・・・・って、大西さんのこと?」 「う、うん。ほら・・・、じみこ だから、ね。」 「お母さんはねぇ、反対したのよ。みっちゃんの名前。でもね、お父さんが勝手につけちゃって・・・・。生まれた時からお寺の巫女にする予定だったからって、安直過ぎだと思うのよ~。」 「お母さん!恥ずかしいからその話しないでよぉ・・・・。」 お寺の巫女で、そのまま寺巫女とは、いくらなんでも安直過ぎる。なんつー父親だ。 「ねぇねぇ、あたしも今度からみっちゃんって呼んでいい?」 「う、良いけど・・・・名前の由来は誰にも言わないでね・・・・!中島君も!」 「じゃあ俺もみっちゃんって呼んでいい?」 「えっ!?いやっ・・・・ちょっと・・・・でもっ・・・・!」 「あははは。冗談だよ。」 なんとなくイジワルをしてみたくなった俺。慌てふためく大西さんはちょっと可愛かった。 「冗談も程々にしておきなさいよ。みっちゃんに嫌われちゃうわよ。」 「おお、そりゃマズイ。男として。」 「別にそれぐらいで嫌ったりしないよ。あと、お母さん!余計なこと喋りすぎだよ!もう!」 普段出さないような大きい声も母親に向かっては普通に出す大西さん。いや、これが普段の大西さんで、学校にいるときは他が騒がしいから目立たないだけかもしれない。 「ごめんね、お母さん嬉しくってつい口が滑っちゃったのよ。それで中島さんと中島君?双子の兄妹なんですってね。仲良いわね~。」 「仲良いって、康孝。」 「なぜそれを俺に振る。」 「うふふ、いいわね~・・・・。あら?もうこんな時間!早く昼食作らないと・・・・。じゃあごゆっくりどうぞ~。」 言うだけ言って大西さんのお母さんはどこかへ行ってしまった。まぁ、恐らく台所だろう。 「ごめんね、変なお母さんで・・・・。」 「あはは~、うちのお母さんもあんなだから気にしないでいいよ。」 「友恵、お前あとでシバくからな。」 「そういえば、大西さん。さっきの話だと、この寺の巫女・・・・なんだって?」 「あー、うん・・・。まだ違うけど・・・いや、もう巫女なのかなぁ・・・・。」 「あのさ、巫女って聞いたことはあるけど、どんなことする人なの?」 Wikipedia−巫女 「詳しすぎて驚いた。さすがwikipediaね。」 いやいや・・・・。このくだり意味あんのか?すっげーメタ発言してるんだけど。 「巫女になるってことは、このお寺で働くって事でしょ?」 「うん。でもお父さんもお母さんも強制はしないって言ってくれてるから、ちょっと迷ってるんだ・・・・。」 大西さんの気持ちを代弁するなら、自分のやりたいこともあるが、親の助けになる巫女を選んだほうがいいのか迷っているということなんだろう。 なんというか、大西さんらしい悩みだ。俺が大西さんの何を知っているのか、という話もあるが。 ふと友恵の方に目をやると、なんかやたらキョロキョロしていた。 「友恵・・・・、挙動不審だぞ。」 「いや、あのね、今何時かなぁって思って。携帯忘れちゃってさぁ。」 最近の学生は携帯を肌身離さず持ってるというのにこいつは・・・・。というかこいつ携帯電話、いつ契約したんだ? 「こっちの部屋に時計あるけど・・・・・、もうすぐ正午ね。」 「え!じゃあ |