人助けの男 第13話「殺人鬼現る!?」 世間は3月。俺の通う丘科(オカカ)高校も春休みに入り、ゆったりした毎日を送っている。しかし春休みに宿題とか出すなよなぁ・・・。面倒臭い。 「ちょっとちょっと!見てこれ!」 騒がしい様子で俺の部屋に入ってくる友恵。手には市内新聞が握られていた。 市内新聞とは、市が発刊している新聞(と行っても広報誌の用なもの)で、市役所なんかに行くとタダでもらえる。 ウチは母さんが読んでるので、毎月家に届く。手数料は取られるらしいが・・・・。 「その新聞に何か書いてあんの?」 「 何か 書いてあるに決まってるじゃない。新聞なんだから。・・・・じゃなくって、この記事見なさいよ!」 「ん~何々。・・・・・・振賭(フリカケ)町に殺人鬼ぃ・・・?振賭町って・・ココじゃんか!」 俺の家は活尾武市 振賭町(カツオブシ フリカケチョウ)にある。つまり俺が住んでる町に殺人鬼が現れたってことだ・・・・。 「ちょ、ちょっと詳しく見せてくれ!」 ・ ・ ・ ・ どうやら殺人鬼というのは最近この辺りをうろついている通り魔の事らしい。そいつの被害者は既に3人いるらしい・・・・。すべての死体は滅茶苦茶に切り裂かれ、一部はどこかに消え去っていて(犯人が持ち帰った?)事件が起きたのも全てこの振賭町であることから警察は同一犯と断定したそうだ。その惨さから新聞はその殺人鬼を「カマキリ男」と名付けている。物騒な話題になんとも気の抜けた名前だ・・・・。 しかし最近外に出てなかったから全然知らなかったなぁ。外に出ても買い物行くぐらいだし・・・・。 「怖いわよね、殺人鬼なんて。」 「お前ならチョチョイっとやれちゃうんじゃないか?」 「あんたね・・・・、あたしを超能力者かなんかだと思ってるの?」 「いや、記憶操作とかなんかで無害な人間にさ・・・・」 (お二人共・・・・、拙者・・・・カマキリ男に心当たりがあるでござるよ。) 「・・・・・はい?」 突然、侍さんがこんなことを言ったので俺達は目を丸くした。 「侍さんが心当たりある・・・・って、いつの時代の話?」 (あぁ、いや、拙者昔の記憶は戻ってござらぬよ。以前話したでござろう。だが・・・何か知ってるような・・・・そんな感じがするのでござる。) そういえば侍さんは自縛霊になる前の記憶が無いんだったっけ。 「・・・・・・面白そうね。侍さんの生前の記憶に関与してることかもしれないわ。」 「待てよ友恵。侍さんの生前の記憶って・・・・この殺人鬼は今、この時代にいるんだぞ!何の関わりがあるって言うんだよ。」 「まぁ、確かにそうだけどさ。同じような事件があったとすれば、ちょっと面白くない?イギリスのジャック・ザ・リッパーみたいなヤツが日本にもいたことになるわ。それって大発見でしょ。」 確かに・・・・っつうかなんでコイツは切り裂きジャックを知ってるんだ。神の使いはそういう無駄な知識も勉強するのか? 「でもよ、日本の史実に晒されてないってことは、そもそも文献が残ってないんじゃないか?」 「わからないわ。既に全ての文献が発掘されたわけじゃないでしょ?残ってるかもしれないじゃない。」 「どうすんだよ、それ。どこを探す気だ?」 「決まってるじゃない。侍さんと出会った神社、錆礼神社よ!」 そんなこんなで俺達は錆礼神社へ行くことになった。錆礼神社と言えば正月に初詣に来た寂れた神社だ。建物の裏に侍さんが縛られていた石碑があり、侍さんとはそこで出会った。 「しかし・・・・いいのか、外に出て。殺人鬼と会う可能性もあるんだぞ・・・・。」 「あんた記事ちゃんと読んだの?犯行は確認されてるもの全て夜中に起こってるのよ。今は・・・・14時半、真昼間ね。」 「はぁ・・・・、それならいいんだけどさ。・・・・・ところで侍さんの心当たりってどんな事なんだ?」 (ん~、・・・・・・確か化け物とあだ名されていたことは覚えてるでござる。) 化け物・・・・化け物ねぇ。そんなあだ名を付けられるぐらい人殺しをしていたってことなのか・・・・。 そして錆礼神社に到着した。年老いたお坊さんが一人掃除をしているだけで後は誰も見当たらない。まぁ、正月でさえ人が少なかったんだから、ましてやこの時期に人が来るはずも無いか・・・・。 「すいませーん!ちょっといいですか?」 友恵が掃除しているお坊さんに話しかけた。 ・・・・・が、反応が無い。 「ちょっと!聞いてるんですか!」 「・・・・・んお、ああ、どうされましたかな・・・・?」 2度話しかけてようやく反応があった。だが耳が遠いというわけではないようだ。何かボーっとしていて何も考えられいないといった感じの様子だった。 「最近この町で、夜に殺人鬼が徘徊してること・・・・・知ってますか?」 「なんじゃと!殺人鬼!・・・・・し、知らんぞ!ワシはなぁ~んも知らんっ!」 そう言うと掃除を切り上げ、神社の建物の中に入ってしまった。 ・・・・怪しい。ああいう反応をする人は絶対に何か知っているものだ。しかしここまであからさまな人は初めて見た。貴重な体験をさせてもらいました。 「絶対知ってるわね、あのお坊さん。まぁそれは置いといて、建物の裏に行ってみない?あの時は侍さんの方に目が行ってて石碑を見てなかったでしょ?なんか気になっちゃってさ。」 「そうだな。なんであの場所に侍さんがいたのかわかるかもしれないし・・・・行ってみるか。」 「あ・・・・!何これ・・・!どういうことなの・・・・?」 先に建物の裏を覘いた友恵が驚嘆の声を上げた。 そして俺もそれを見てその声を上げたことに納得した。 「石碑が・・・・折れてる!?」 細長く立っていた石碑が中程からボロボロに砕けて折れていた・・・・。 しかしそれよりも気になるのが穴だ。 壊れた石碑の横に大体1メートル四方の大穴がポッカリと空いている・・・・。 「こりゃ・・・・なんだ??結構深い・・・。」 (お、落ちないように気をつけるでござるよ!) 俺は試しにそこらへんに落ちていたコブシ大の石ころを穴に落としてみた。井戸の水があるか、枯れているか確かめるのと同じ方法だ。これで大体の深さがわかるかもしれない。 「それっ!」 ・・・・・・・2秒ほどして穴の奥深くから ドンッ という音が聞こえた。これはかなり深そうだ・・・。 「万が一落ちたら危ないわね・・・・下に何かいるかもしれないし。」 「こ、怖いこと言うなよな・・・・。」 「こらっ!お前達、そこで何をしとる!」 突然声がしたので振り向くと、さっきのお坊さんが慌てた顔でこっちに走ってきた。 「こ、この穴は何なんですか?」 「し、知らん・・・・いや、知らなくない!でもお前達には関係ないじゃろう!」 「どうして隠すんですか?何か知られちゃいけないことでもあるんですか?」 友恵がお坊さんに対して強気に質問を仕掛けた。明らかにお坊さんは困っている様子で、色々と考えた結果なのか、俺たちにこう言った。 「わ、わかった。教えてやるから、この穴の事は誰にも言わんでくれ・・・・。」 俺達は神社の中へと案内された。寂れた神社にしては内装が中々綺麗だ。 「あ、あの穴はじゃな・・・・怪物の封印が解けてしまったのじゃよ・・・・。その時に出来た穴じゃ・・・・」 「ぷっ・・・。怪物?面白いですねそれ。」 俺は思わず笑ってしまった。怪物を封印しているなんてファンタジーな出来事、この現実にあるはずがない。 「何笑ってんのよ。・・・・幽霊や神の存在を知っておいて怪物は信じないっていうの?」 ・・・・あ。それもそうだ・・・・。友恵に会うまで神様なんていないと思ってたし、幽霊なんて見た人の思い込みだと信じていた・・・・。でもまさか、怪物だなんて・・・・。 「信じられぬのも無理は無い。だが、真実なのじゃ・・・・。この神社に封印していた怪物はその昔、江戸の時代に多くの人間を惨殺した化け物・・・。その名も・・・・殺人蟷螂・・・・!!」 「「殺人カマキリ!?」」 俺と友恵は声を合わせて復唱してしまった。殺人カマキリって・・・・たしか今この町で殺人を繰り返している殺人鬼はカマキリ男なんて呼ばれてて・・・・。 「そっちの娘さんがさっき言ってたあの殺人鬼・・・・、市内新聞でカマキリ男などと書かれておった。それを見てワシは青ざめてなぁ・・・。絶対あの殺人蟷螂じゃ・・・怪物が現代に蘇ってしまったのじゃ・・・・。」 殺人カマキリ・・・・、まさか侍さんの言っていた化け物というのは・・・・あだ名でも何でもなく、そのまんま 怪物 のことを指していたのか・・・?しかも侍さんのいた石碑が破壊され、近くの大穴から殺人カマキリが出てきたという・・・・。もしかしてあの時・・・・・・とんでもないことをしてしまったんじゃ・・・・・・・・!? ふと横にいる友恵の顔を見ると・・・・顔面蒼白だった・・・・・・・・。 >>第14話に続く |