人助けの男 第8話「友恵の秘密」 「こんなに集まったのか!?」 部室にある応募用紙の数を見て心底驚いた。 今日は助っ人部チョコ申し込みの締切日だが、その数は軽く3桁を超えている。 「ボロいもんでしょ?人助けできて、お金も儲かる!まぁ、稼ぎはほとんどチョコ制作費に回しちゃうけどね。」 確か、一人200円ずつ取ってるはずだから・・・・・・2万円以上儲かってるのか・・・。 いくらチョコたくさん作るっていってもそんなに値段かかるか・・・? 「やっぱりお金取るのは良くないんじゃないかしら・・・。怒られちゃうわ・・・。」 先生が苦笑いして友恵に言った。 「そんなこと言われても、もう過ぎたことですし。それにあの時止めなかったんだから先生も共犯ですよ。」 ・・・って事は俺も共犯なんだろうなぁ。ってか立場は部長だから主犯? チョコを申し込んだ正確な人数はどうやら171人らしい。 この学校にそんなにモテない人間がいるとは思わなかった。 いや、実際はもっといるんだろう。俺みたいにモテてなくても申し込まなかった奴とか。 「それじゃあ女子は明日チョコ作りしましょう。金曜は配っておしまい!男子は・・・・何もやること無いわね・・・。」 「まぁ、楽でいいんだけどそれじゃあ不公平かな。」 「そうだ!俺も友恵ちゃんのために何かやるぜ!!」 いつも通り、張り切る柳沢。 前回は自身が昔モテていた(というか彼女がいただけ)という話をしたが よく考えれば今こいつはモテてないし、あの後聞いた話だとチョコもそれ以来貰ったこと無いらしい。 人間の人生にはモテ期が2度程あるらしいが、その頃が柳沢のモテ期だったんだろうということで話に決着がついた。 ・・・・まぁ、一発殴ったが。 「何かやるっていっても、本当に何もやること無いのよ。男が作ったチョコなんて誰も欲しがらないだろうし。」 「バレなきゃ大丈夫じゃないのかぁ?」 大門が言った。まぁ正論だろう。 「じゃあバレたらどうするのよ。今まさにこれからって時なのにいきなり助っ人部の信用がなくなるでしょ?」 ・・・・こっちの方が正論だった。確かに今は新設したばかりの助っ人部の身を固めていくために信用を得なくちゃならない。 「あとね、チョコを作るのに調理室を借りる予定なのよ。明日の放課後は空いてるらしいから。その時人が通りかからないとも限らないでしょ。だからチョコ作りは女子だけでやるわ。幸い、この中に男子がチョコを貰うのを躊躇するような不細工な子はいないしね。」 不細工な子にかなり失礼だが、俺が評するに「下」以下の面子はいないのは確かだ。 ・・・・友恵はどう見ても中の下だが。 「そういや、チョコの名義はどうするんだ?まさか助っ人部なんて書くんじゃないだろうな。」 「そうねえ。171÷3=57だから3人の名前をランダムで使えば良いんじゃない?」 「へぇ・・・割り切れるのか。 「え~!なんでそう思うの!?」 「副部長、一番美人だよっ!」 「逆に幸福だろぉ!!」 「また妹補正かよヤス!」 すごい勢いでみんなが反論してきたので少しビビった。 「ちょっと待て、お前ら待て、待ってくれ・・・。・・・・・なんで?こいつが美人??」 友恵を指差しながら俺は言った。 「どう見たってなぁ・・・なぁ柳沢。」 「そうそう。美人じゃないなんていってるのはヤスだけだぜ。」 うそーん・・・・。 「部長さん、もしかしてブス専?」 「そんなわけないだろ!・・・・しかし、なんで・・・?なんでみんなこいつが美人に見えるんだ・・・?」 「ま、しょうがないよな!ヤスは妹属性皆無だから!」 「なんの属性だよ!!」 「はいはい、話ズレすぎ。とりあえずチョコの名義は3等分するってことでいいわね。」 「あ、あのっ、副部長。」 「なに?寺巫女ちゃん。」 「わたし名義のチョコなんか貰ってもガッカリさせちゃうだけだと思うから・・・、わたしの名前は使わないで欲しいなぁって。」 「うーん、そうかしら?モテない人ならチョコもらえただけで喜ぶと思うけど。」 友恵はまるでわかっちゃいない。モテない男がこんな確実にチョコを貰えるイベントで我侭を言わないはずが無い。まぁ大西さんは俺が見る限り友恵よりは良いと思うんだけど・・・・自分の査定が信じられなくなって来てるからこれ以上はなんとも言えない。 「ま、そういうなら良いわ。先生の名前使うから。」 「え、ええーっ!?」 急に話の矛先が向かって慌てる先生。 「いくら顧問だからってそれは・・・・」 「先生、意外と生徒人気あるし、いいんじゃね!?」 反論しようとした所で柳沢が口を挟んだ。 「この際だから、先生も一緒に作りましょう。」 と、大西さんが言った。 先生は押されるのに弱いのがみんなわかっているらしく、どんどん押されていって結局先生も協力することになった。 「で、結局男子は何もやらなのかぁ?」 「まぁそういうことになるわね。最近逆チョコって流行ってるらしいけど、モテない3人組からチョコ貰っても女の子喜ばないだろうし。何もやらないでいいわ。」 「ま、そういうんなら何もしないでいいか。」 「何もしないのが友恵ちゃんのためになるなら、何もしないぜ!」 ということで話が落ち着き今日のところは解散となった。 しかしみんながみんな「友恵は美人」なんて言うと思わなかった。 柳沢や大門はいままで「物好きな奴」だと思っていたがどうやら違うみたいだしなぁ・・・。 というわけで、家に帰ったところで友恵に聞いてみた。 「お前、1週間以内に人助けしないと死ぬってこと以外に俺になんかしたのか?」 「何よ急に。別に何もしてないわよ。」 「いや、でもさ。どう見てもお前が美人には見えな・・・・」 「何もしてないって。あんたにはね。」 「・・・・・なにぃ!?ってことはみんなに何かしたのか!?」 「あんたにはあたしのありのままの姿が見えてるでしょ。なんとも微妙な顔が。」 「なんだ、自覚してんのか。」 「うっさいわね。女の子は美しさに憧れるものなのよ。本当はあんたにもこんな顔見せたくなかったんだけど。」 「そこまで卑下すんなよ。不細工の域には達してないからさ。・・・でなんで俺にはお前が美人に見えないんだ?」 「あんたには一つしか使えないのよ、枷が。一週間に一度人助けしないと死ぬって枷付けちゃってるからねー。」 「じゃあそれ外せばいいじゃねえか!;」 「ま、もう外してもいいんだけどさ。急に顔変わったら戸惑うでしょ?それに立場上双子の兄妹だから、惚れられたりしても困るし。」 「誰がお前に惚れるかっ。」 「他のみんなには美人に見える 術 っていうかなんていうか、そういう風のを使ってんのよ。だからあんたにもあたしが美人に見えるようになるわけ。だから万が一よ、万が一。」 「じゃあ、とりあえず一週間に一度人助けしないと死ぬっていう枷は外してくれよ!」 「えー、やだ。」 「ちょ、てめえ!」 「いいでしょ、別に。いままで通り!いままで通りよ!」 もうしょうがない。いっても無駄だ。あきらめよう・・・。 しかし俺以外の人間には全員友恵が美人に見えてるのか・・・。なんか反則だなそれ。 「あ、そうだ。それって他の神の使いにも効果あんのか?」 「直接干渉するわけじゃないからあると思うわ。現にミミだって私のこと美人だって言ってたでしょ?もしかしたらミミも同じようなことしてるかも知れないわ。結構顔立ち整ってるし。」 「なるほど・・・、なんか大西さんが名前使うのを断ったのもわかる気がするな・・・。」 (拙者はどっちが見えているでござるか?) 「どっちってどういうこと?」 (美人の友恵殿か、ありのままの友恵殿か、でござる。) 「見てわからないの?」 (いやはや、拙者は古い人間でござるから現代の美的せんすがよくわからないのだ。) 「現代の美的センスねぇ・・・。昔と一緒だと思うけど。」 「侍さんは友恵を見てどう思うんだい?」 (それなりに綺麗だと思うでござる。) 「ありがと。侍さんには何もしてないはずだから、本当のあたしが見えてるわよ。」 (あ、え、え?そうならそうと最初から言って欲しいでござるよ!) 「よかったじゃないか友恵。物好きがいて。」 「あんたねぇ・・・殴るわよ?」 とにかく、みんなは友恵が美人に見えていることがわかった。 ってことは友恵のチョコを貰った人はかなり喜ぶんだろう。 これで一気に171個もエネルギーが手に入るわけだ。すっげぇなぁ。 ・・・・なーんか引っかかるような気もするけど、まぁいいか。 >>第9話に続く |