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人助けの男 第6話「新設!助っ人部(後編)」 「あ、見て見て。あの人幸福の神の使いが憑いてるわ」 朝食時、友恵がTVを指差して言った。 「見て見てと言われても俺には何も見えないんだが」 『拙者は見えるでござるよ。あれが幸福の神の使いでござるか。』 幽霊でも神の使いはみえるらしい。 しかし幸福の神の使いねぇ……。 人助けの神より幸福の神のほうがいいなぁ……。 「ん……? そういや同じ神の使いなのに何でお前は見えてあっちは見えないんだ?」 「あたしは見える必要があるからよ。ほら、あんたに人助けさせないとダメだし」 「そりゃそうか。……いや、なんかおかしいぞ? 人助けの神の使いが人間に人助けさせ始めたのは、つい最近なんだよな?」 「そうね、私があんたの妹になってからだし。それがどうかした?」 「それまでの人助けの神の使いって……いったい何してたんだ?」 「もちろん人助けをさせてたわよ。でもその時は他の神の使いみたいに姿を消してたけどね……。 人助けの神の力が健在だった頃はそうしてたんだけど、今はこうして姿を現して人助けするようにお願いするしかないのよ」 「お願い……ねぇ?」 「何よ、その目は! いいじゃない! 手段選んでられないの!」 だからそれはお願いじゃなくて脅しだっての……。言っても無駄だから口にしないけど。 「はぁ~。それにしても幸福の神の使いなんて憑いた人を幸福にしてれば出世できちゃうんだから、ボロい仕事よねぇ……。 あたしも幸福の神の使いに生まれたかった~」 「……ってことはお前、生まれたときから人助けの神の使いなのか?」 「うん。そういうのは生まれつき決められるから。だって選択制にしたら誰も貧乏神の使いとか選択しないでしょ?」 う~ん。その世界の人たちも苦労してるんだな。 「でも、もし幸福の神が、今の人助けの神と同じ状況になったら、逆に大変じゃないか?」 「ふぇ? なんでよ」 「人助けの神が元気だった頃は、その力で人に人助けさせてたってことだろ? さっきの話は」 「姿を消してても良かった頃の話ね」 「で、幸福の神の使いは人を幸福にさせるわけだ」 「……あ。なるほど! 私は康孝を扱き使って人助けさせればいいけど、 幸福の神の使いは自分でその対象を幸福にさせなきゃいけないんだ!」 「そういうことになるよな? ……良かったじゃん、人助けの神の使いで」 「ものは考え様ね~。やるじゃない康孝!」 ……ま、扱き使われる俺は全然良くないけどな……。 やっぱり幸福の神の使いが良かった……。 「お~っす! 中島兄妹!」 「おっす。相変わらず朝から元気だな」 登校中、いつものように柳沢が声をかけてくる。 最近はまるで待ち伏せていたかのように同じ場所で遭遇するのが気になるが……。 まさか友恵と登校するためじゃないだろうな……? 「そういえば部員はどうだ!? 人来たか!?」 「馬鹿ね。昨日の放課後に張り紙したんだから、まだ誰も見てないでしょ」 「んおっ! そういえばそうだ!」 柳沢の奴、ここまで馬鹿だったのか……。 いや、もしかしたら記憶操作の弊害が出ているのかもしれない。 「ただ待ってるだけっていうのも難だから、10分休みとか昼休みとかに勧誘に行きましょうよ」 「いいねいいね! やろうぜ!」 友恵限定のイエスマンと化した柳沢が、面倒な提案を嬉々として賛成した。 反論したくても、多勢に無勢。この3人が集まっても、友恵の意見しか通らないだろう。困ったもんだ。 そして10分休みは時間が短いという理由で、結局昼休みに勧誘を行うことになった。 「二手にわかれましょう。柳沢君は1年のA~C組、私達はD~F組へ行くわ」 「なっ、ずるいぞヤス! 俺も友恵ちゃんと勧誘に行きたいっ!!」 「俺に文句言うなよ!」 「これは副部長命令よ。わかった?」 どうやら友恵は助っ人部の副部長らしい。部が成立する前からそんなこと決めてたのかって話だが……。 友恵が副部長で、その権限を振りかざせるってことは、柳沢は平部員だな。 待てよ……? ってことは…………部長って……俺なの…………? 「友恵ちゃんがそこまで言うならしょうがないかな~。もう副部長命令とかそんなんじゃなくてさ。友恵ちゃん命令で良いから!」 「じゃあそういうことでいいから、さっさと行きなさい!」 「合点承知の助!」 今時合点承知の助である。センスが古い……。 そんなこんなで柳沢を送り出すと俺たちは1年D組に向かった。 「で、友恵。どうやって勧誘する気だ?」 「………………どうしましょっか?」 「どうしましょっか、じゃねえよ! 何も考えてなかったのか!?」 「何も考えてないわ!」 「堂々とすんな! ……ったく。大体、誘うにしてもこの時期に帰宅部なやつだぞ。まず断られるだろ……」 「あーもう! ダメじゃないの! 全然ダメね! 勧誘、難しいわ」 なんか急に友恵が馬鹿に見えてきた。 まあ、時期が時期だから勧誘が難しいのはわかるが。 そのあとE~F組も見てきたが中々誘えるような人はおらず、勧誘は失敗に終わった。 「結局、何もできなかったな」 「はぁ~。張り紙に頼るしかないわね」 「柳沢にもな」 「張り紙の方が頼りになりそう」 「おいおい……」 俺達が諦めてA組の教室に戻ろうとした時―――――― 「きゃあっ!」 という声と、紙がバサァっと散らばる音が後ろから聞こえた。 数学の堂路(ドウジ)先生だ。 どうやら段差も何も無いところで躓いて、持っていたプリントや教科書をぶち撒いたらしい。 「大丈夫ですか先生!」 人助けのチャンスと思った俺はすかさずプリントを拾い集めた。 「あ、ありがとう、中島君!」 この先生は俺達と同時にこの学校に来た新任の教師で、かなりのおっちょこちょいである。 今のように何も無いところで躓くことは、この人にとって別段珍しい行動ではない。 …………今思ったが、この人を見張っていれば人助けの回数を稼ぐことも容易かもしれない……。 「はい、先生」 そう言ってプリントを手渡すと先生は、 「本当にありがとう。先生助かっちゃった」 と言って微笑んでくれた。よし、これで人助けになっただろう。 そう思って友恵の方を見ると知らない女の子と会話していた。 「あれ、その子は?」 「あ、ちょっとね。同類よ同類」 同類?? 何の同類? 俺が首をかしげていると、友恵と会話していた女の子が俺に話しかけてきた。 「あなた人助けしないと死ぬんですって? 苦労してるわね~」 「えぇ!? おい、友恵!」 「大丈夫大丈夫。言ったでしょ、同類だって」 同類って……つまり友恵の仲間? 「……この子も人助けの神の使いなのか?」 俺が聞くと友恵は首を振った。 「違う違う。彼女は抜け神の使いなのよ」 「抜け神???」 「わかりやすいように言うとドジ神ね」 「ドジ……ってつまり……」 「もしかして…………中島君も神の使いに憑かれてるの!?」 後ろで話を聞いていたのか、先生が驚きながら話に入ってきた。 どうやら堂路先生のおっちょこちょいな面はほとんど抜け神の使いのせいらしい。 抜け神の使いに憑かれると、文字通り間抜けになってしまうらしい。……大変だ。 それに堂路先生は小学生の頃から憑かれているらしく、教師になるのにすごく苦労したという話を聞かされた。 そりゃ苦労するだろうなぁ。今だって授業中に計算間違えたりするし。先生としてどうなのかと思っていたが……。 そして今は抜け神の使いがこの学校に生徒として入り、憑かれながらも教師生活をしているそうだ。 「なるほどなるほど。事情は飲み込めた。で、その抜け神の使いは姿を現す必要があるのか?」 「あ、そういえばそうね。今の私みたいに補佐する必要も無いし、なんでみんなに見えるようにしてるの?」 「最初はね、文香ちゃん……じゃなくって、先生と友達になろうとしたのよ。ちゃんと理由も説明してね。 だってかわいそうでしょ? わたしのせいでいっつも忘れ物したり、空気が読めなかったり……」 うわぁ……なんて嫌な神様だ。俺は人助けの神で良かった……。 「でも……この学校の生徒にまでなる必要は無いんじゃないのか?」 「いや~、それがねっ。ずっと姿現してたら……戻れなくなったのでしたー!」 「自分もドジなのかい!」 「ま、それはいいとして。入っても良いわよ、助っ人部!」 「えっ!?」 「えへへ~」 友恵がにやけた顔で俺を見る。 どうやらさっき俺が先生を助けているときに、友恵のやつがちゃっかり勧誘していたらしい。 「わたしは許斐(コノミ)ミミ。よろしくね、部長サン!」 「あら、新しいクラブを始めるの? なんてクラブ?」 「助っ人部っていうんですけど……困ってる人を助けたりする部活です」 「ふんふん。なるほど……。そういうのなら大丈夫そうね。よかったら私、顧問してあげてもいいけど……。ミミちゃんも入るみたいだし……」 「ぜひ! おねがいします!」 先生がそう言うと友恵が嬉々とした顔で先生と握手を交わした。 堂路先生は新任なので部活の顧問をやっていなかったのが幸いした。 勧誘に成功し意気揚々と教室に帰ってきたところで5時間目の予鈴が鳴った。 席を見ると既に柳沢は戻ってきていた。ちなみに柳沢の席は俺の斜め前、友恵は俺の後ろに座っている。 「おう、柳沢。どうだった?」 「ふっふっふ……見つけたぜ!」 「嘘!? やるじゃない!」 友恵が普通に驚く。どんだけ柳沢への評価低いんだよお前は……。 こいつの性格ならむしろ勧誘するのに向いてそうだが。 「で、何組のなんて人だ?」 「ふははは……! 俺だよ俺!」 俺の前に座っていた男がクルリと振り向いて言った。 「大門か!」 浜松大門(ハママツ ダイモン)、それがこいつの名前だ。 巨漢で力持ちで大食い――ついでにちょっと太ってる――というなんともそれっぽい特徴を持ち合わせている。 運動部に入ってもおかしくない奴だが、スポーツに明け暮れる日々が嫌とのことで、こいつも帰宅部だ。 「よく柳沢の勧誘に乗ったな。なんか理由あるのか?」 「ふははは……ヤスも鈍いな! なぁ柳沢よ!」 「まったくだぜ。友恵ちゃんのために決まってるだろうが!!」 柳沢の発言のあと、2人共なんとも誇らしげな顔をしているがなぜ友恵なんかがいいのだろうか。 横目に友恵を見るが、やはりどうみてもモテる容姿では無い。 「ま、というわけだ。よろしくなぁ!」 「結局、知り合い誘っただけじゃない。見直して損しちゃった」 「えぇ!? 良いじゃん! 見直してよ友恵ちゃ~~んっ!!」 「はいはい。……何にせよ、これで部員5人揃ったわね!」 「ついでに顧問の先生もな」 「えっ? もう顧問の先生も見つけたのか!?」 驚く柳沢。そりゃそうだ。 まさか勧誘した生徒が先生とセットだったとは夢にも思うまい。 そして放課後。クラブ活動が認定され、晴れて助っ人部設立となった。 俺、友恵、柳沢、大門、許斐さん、そして堂路先生が、空き部屋となった元バスケ部室に集まる。 「おぉ、散らかってるかと思いきやそうでもねえな」 大門が部室に入って開口一番、そう言った。 確かに運動部の部室だったのだから、もっと汚れてるイメージがあった。 最初の活動は人助けにもならない大掃除から始まると思っていたから、ある意味助かったが……。 「事前に片付けてもらっといたわ。まぁ、最後の方は人数が3人とかで、 あんまり活動もしてなかったみたいだから、掃除もすぐに済んだらしいけどね」 「お前の仕業か」 「助かったでしょ?」 「はい」 「あはは……。あんまり悪用しちゃダメだよ?」 「ミミ、誤解しないで欲しいけど、今回ばかりは普通に頼んだだけよ? もう、康孝のせいで変な誤解を生んだじゃないの」 「日頃の行いだ、バーカ」 「なによっ!」 「まぁまぁまぁ!! 友恵ちゃん、落ち着いて! ヤスも挑発すんなって!」 言い合いを始めてしまった俺達だったが、柳沢に仲裁されてすぐに止まった。 このぐらいの言い合いならしょっちゅうやってるんだが、今は先生や許斐さんもいるからな……。自重しよう。 「じゃあ席についてー。椅子足りるわね? とりあえず自己紹介しましょうか」 先生が先生らしくまとめる。 自己紹介と言っても、周りは見知った顔ばかりなのだが。 「はーい、それじゃ私から! 私は1年A組の中島友恵、こいつとは双子の兄妹! よろしくね! あと、さっきみたいな言い合いはよくあることだから、最初は驚くかもしれないけど、そんなに心配しないでね」 隣に座ってる俺を指差して、友恵が自己紹介を済ませた。 「じゃ、次おれー! 同じく1年A組の柳沢誠! 誠は誠実の誠って書くぜ! よろしくな!!」 「わたしは1年D組の許斐ミミ。コノミミミって言い辛いけど、苗字は気にせず、気軽にミミって呼んでねー」 「うっし、じゃあ俺だな! 俺は大門! 1年A組浜松大門だ! よろしくなぁ!」 次々と自己紹介を終えていくみんな。許斐さん以外A組じゃないか……おいおい。 彼女性格明るそうだし、疎外感とか心配しなくても良さそうかな? それ以前に神の使いだし、人間とは精神構造が違うかもしれない。要らぬ心配かな。 ……ふと気付くとみんなの視線は俺に集まっていた。そうだ、俺の番だ。 「俺は中島康孝。1年A組! なんか部長にされちゃったらしいんだけど……とりあえずよろしく!」 名前以外の自己紹介を思いつかなかったので適当に喋ってみたが……案の定詰まったので「よろしく」でお茶を濁した。 大門は名前を名乗るだけの自己紹介だったが、あいつは声のデカさと勢いで乗り切ってるからなぁ……。 生徒全員の自己紹介を終えて、先生が辺りを見回した。 次は先生の番だ。 「顧問の堂路文香(ドウジ フミカ)です。担当教科は数学……って1年は全クラス受け持ってるからみんなは知ってるわね~」 「出たっ! 先生お得意のうっかり~!」 「こーら、柳沢君。あんまり先生をイジんないでよ?」 「たはは……メンゴメンゴ!」 だから古いっつーの、柳沢! 自己紹介も終わったところで、友恵が席を立って部の方針を説明し始めた。 ……なんつーか、やっぱりこいつが部長で良かったんじゃねえかな。 兎にも角にも、こうして助っ人部はこの学校の倶楽部として成立した。 成すがまま、流されるがままクラブが作られ、部長になってしまったが これからこの助っ人部でどんな活動をしていくのだろうか …………あまり良い予感はしない。 『拙者も自己紹介したかったでござるよ!』 侍さんは……結局柳沢以外には秘密だ。 >>第7話に続く |