人助けの男 第6話「新設!助っ人部(後編)」 「あ、見て見て。あの人幸福の神の使いが憑いてるわ。」 朝食時、友恵がTVを指差して言った。 「見て見てと言われても俺には何も見えないんだが。」 (拙者は見えるでござるよ。ほう、あれが幸福の神の使いでござるか。) まさか咄嗟に口裏を合わせたわけではないだろうから、2人は本当のことを言ってるんだろう。 しかし幸福の神の使いねぇ・・・・。 人助けの神より幸福の神のほうがいいなぁ・・・・。 「ん、そういや同じ神の使いなのに何でお前は見えてあっちは見えないんだよ。」 「あたしは見える必要があるからよ。幸福の神の使いなんて憑いた人を幸福にしてれば出世できちゃうんだから、ボロい仕事よねぇ~・・・・。あたしも幸福の神の使いに生まれれば良かったのに。」 「え?ってことはお前、生まれたときから人助けの神の使いなわけ?」 「そうね。そういうのは生まれつきなものだから。だって選択制にしたら誰も貧乏神の使いとか選択しないでしょ?」 う~ん。その世界の人たちも苦労してるんだな。 「お~っす!中島兄妹!」 「おう。相変わらず朝から元気だな。」 登校中、いつものように柳沢が声をかけてくる。 まるで待ち伏せていたかのように同じ場所で遭遇するのが気になるが・・・。 「そういえば部員はどうだ!?人来たか!?」 「馬鹿ね。昨日の放課後に張り紙したんだから、まだ誰も見てないわよ。」 「んおっ!そういえばそうだ!」 柳沢の奴、ここまで馬鹿だったのか・・・。 いやもしかしたら記憶操作の副作用とかが出ているのかもしれない。 「ただ待ってるだけっていうのも難だから、10分休みとか昼休みとかに勧誘に行きましょうよ。」 「いいねいいね!やろうぜ!」 面倒な提案を友恵のイエスマンと化した柳沢が嬉々として賛成するので反論のしようがない。 困ったものだ・・・・。 そして10分休みは時間が短いという理由で、結局昼休みに勧誘を行うことになった。 「二手にわかれましょう。柳沢君は1年のA~C組、あたし達はD~F組を当たるわ。」 「なっ、ずるいぞヤス!俺も友恵ちゃんと勧誘に行きたいっ!!」 「俺が決めたわけじゃねえよ!」 「これは副部長命令よ。わかった?」 どうやら友恵は助っ人部の副部長らしい。まったく知らなかった。 ということは副部長が命令出せる柳沢は平部員か。 ・・・・・・ってことは・・・・部長って・・・俺なの・・・・・・? 「友恵ちゃんがそこまで言うならしょうがないかな~。もう副部長命令とかそんなんじゃなくてさ。友恵ちゃん命令で良いから!」 「じゃあそういうことでいいから、さっさと行きなさい!」 「合点承知の助!」 今時合点承知の助は無いだろ、柳沢・・・・。 そんなこんなで柳沢を送り出すと俺たちは1年D組に向かった。 「そういえばお前さ、柳沢に対する態度が段々砕けていってないか?最初の頃はもっと静かに対応してたと思うんだが。」 「まあね。1ヶ月ぐらい経ってああいう態度の方が扱いやすいと悟ったのよ。」 そんな話をしているとD組についた。 「で、友恵。どうやって勧誘する気だ?」 「まずいわね・・。全然考えて無かったわ・・・・。」 まさかそんなワケあるまいと一瞬思ったが、友恵の顔は真剣に焦っていた。 「何か切り出すような話があれば勧誘もできるんだけど。」 「帰宅部かどうかもわからないじゃないか。引き抜きは印象悪くするし。」 「ああもう!勧誘って案外難しいのね!」 なんか急に友恵が馬鹿に見えてきた。 まあ、時期が時期だから勧誘が難しいのはわかるが。 そのあとE~F組も見て見たが中々誘えるような人はおらず、勧誘は失敗に終わった。 「結局、何もできなかったな。」 「はぁ。張り紙に頼るしかないわね。」 あきらめてA組の教室に戻ろうとした時―――――― 「きゃあっ!」 という声と紙がパラパラ落ちる音が後ろから聞こえた。 数学の堂路(ドウジ)先生だ。 どうやら何も無いところで躓いて持っていたプリントや教科書をぶち撒いたらしい。 「大丈夫ですか先生!」 人助けのチャンスと思った俺はすかさずプリントを拾い集めた。 「あ、ありがとう、中島君!」 この先生は俺達と同時にこの学校に来た新任の教師で、かなりおっちょこちょいである。 なので今のように何も無いところで躓くのもよく見かける事だ。 「はい、先生。」 そう言ってプリントを手渡すと先生は、 「本当にありがとう。先生助かっちゃった。」 と言って微笑んでくれた。よし、これで人助けになっただろう。 そう思って友恵の方を見ると別の女の子と会話していた。 「あれ、その子は?」 「あ、ちょっとね。同類よ同類。」 同類??何の同類? 俺が首をかしげていると、友恵と会話していた女の子が俺に話しかけてきた。 「あなた人助けしないと死ぬんですってね。苦労してるわね~。」 「え!教えたのか?」 「いいじゃない。言ったでしょ、同類だって。」 同類って・・・・つまり友恵の仲間か? 「ってことはこの子も人助けの神の使いなのか?」 俺が聞くと友恵が言った。 「あー、違う違う。この子は抜け神の使いなのよ。」 「抜け神???」 「わかりやすいように言うとドジ神ってやつよ。」 「ドジ・・・ってつまり・・・・」 「もしかして・・・・中島君も神の使いに憑かれてるの!?」 後ろで話を聞いていた先生が何かを察したようで、急に話に入ってきた。 どうやら堂路先生のおっちょこちょいな面はほとんど抜け神の使いのせいらしい。 抜け神の使いに憑かれるとどうもそういうことになってしまうらしい。大変だ。 それに堂路先生は小学生の頃から憑かれているらしく、教師になるのに大変苦労したという話を聞かされた。 そりゃ苦労するだろうなぁ。今だって授業中に計算間違えたりするし。 そして今は抜け神の使いがこの学校に生徒として入り、憑かれながらも教師生活をしているそうだ。 「なるほどなるほど。事情は飲み込めた。で、その抜け神の使いは姿を現す必要があるのか?」 「そういえばそうね。あたしみたいに補佐する必要も無いし、なんでみんなに見えるようにしてるの?」 「最初はね、文香ちゃん・・・じゃなくって、先生と友達になろうとしたのよ。ちゃんと理由も説明してね。だってかわいそうでしょ?わたしのせいでおっちょこちょいになっちゃうんだもん。」 「でもこの学校の生徒にまでなる必要は無いんじゃないのか?」 「いや~、それがねっ。ずっと姿現してたら・・・戻れなくなったのでしたー!」 「お前がおっちょこちょいじゃねえか!」 「ま、それはいいとして。入っても良いわよ、助っ人部!」 「えっ!?」 どうやらさっき俺が先生を助けているときに、友恵のやつがちゃっかり勧誘していたらしい。 「わたし、許斐味々(コノミ ミミ)って名前。よろしくね、部長サン!」 「あら、新しい倶楽部を始めるのね?顧問の先生が見つかってないなら私がやってあげてもいいわよ。」 「ぜひ!おねがいします!」 先生がそう言うと友恵が嬉々とした顔で先生と握手を交わした。 堂路先生は新任なので部活の顧問をやっていなかったが、ちょっとうまく行きすぎな気がするなぁ。 5時間目の予鈴が鳴り、机に座ったところで柳沢と合流した。 「お、どうだった?柳沢。」 「見つけたぜ!しかも2人だ!」 「やるじゃない、柳沢君。正直、あんまり期待してなかったんだけど。」 相変わらず友恵は柳沢に平気で冷たいことを言う。ちなみに友恵は俺の後ろの席に座っている。 「で、誰なんだ?」 「ふははは・・・!俺だよ俺!」 俺の前に座っていた男がクルリと振り向いて言った。 「大門か!」 浜松大門(ハママツ ダイモン)、それがこいつの名前だ。 少し太っているが、巨漢で力持ちで大食いというなんともそれっぽい特徴を持ち合わせている。 運動部に入ってもおかしくない奴だが、面倒くさがりやで帰宅部をやっていたが・・・ 「面倒くさがりやのお前がいったいなんで?」 「ふははは・・・・ヤスも鈍いな!なぁ柳沢よ!」 「まったくだぜ。友恵ちゃんのために決まってるだろうが!!」 柳沢の発言のあと、2人共なんとも誇らしげな顔をしているが なぜ友恵なんかがいいのだろうか。どうみてもモテる容姿では無い。 「ま、というわけだ。よろしくなぁ!」 「それで・・・、あと一人は?」 「B組の女子だ。放課後、部室に来るように言っておいたぜ。」 「へ?女子??お前、よく勧誘できたな・・。」 「いや、B組を覘いた時に向こうから話しかけてきたんだよ。張り紙を見てくれたらしいぜ。」 「へぇ~、張り紙効果あったんだ。」 「何にせよ、これで部員6人+顧問の先生が集まったわね。」 「何?顧問の先生も見つけたのか!!」 驚く柳沢。そりゃそうだ。俺だってこんなに都合よく事が進んで驚いてる。 そして放課後。 元バスケ部の部室を助っ人部の部室として使うことになっていた。 そこに俺、友恵、柳沢、大門、許斐さん、堂路先生が集まった。 「で、もう一人はまだかぁ?」 大門がそう言うと――――――― 「あ、あのぉ~・・・・もう居ます・・・。」 近くから声が聞こえたかと思ったら、いつの間にか俺の隣に女の子が座っていた。 「うわ!ごめん、気づかなかったよ!」 「俺も気づかなかったな・・・悪い。」 「んもう、みんなわたしの影響でおっちょこちょいになってんじゃないの?ま、わたしも気づかなかったんだけどね。」 「ごめんなさい。先生も気づかなかったわ。大西さんよね?」 「いいんです。私、影薄いですから・・・。」 どうやらみんな気がついてなかったらしい。 一度会っている柳沢も『俺は気づいていた』という顔をしているが何も言わなかった所を考えるとこいつも気付いてなかったのだろう。 「いやー、みんなうっかり屋さんだよな!俺はじみこちゃんに気付いてたぜ!」 「おい、柳沢よ。いくら影が薄い印象だからって地味子なんてあだ名で呼ばなくてもいいだろぉ。」 大門が柳沢を肘で小突いた。 「あ、あの・・・本名なんです・・。字は違いますけど・・・・。」 「へ・・・!?あ、ああーそりゃー・・・すまんなぁ・・・。」 なんか気まずい空気が流れ始めたので、これはイカンと思い俺はこの場を仕切ることにした。 「じ、じゃあとりあえず自己紹介しようか!」 「賛成ー!あたしは1−Aの中島友恵、こいつとは双子の兄妹です!よろしく!」 俺を指差して友恵が自己紹介を済ませた。 「じゃ、次俺!同じく1−Aの柳沢誠!誠は誠実の誠って書くぜ!よろしくな!!」 「わたしは1−Dの許斐味々。気軽にミミって呼んでね。」 「俺は大門!1−A浜松大門だ!よろしくなぁ!」 「あっ、私、1−Bの大西寺巫女(オオニシ ジミコ)です。よろしくお願いします。」 「顧問の堂路文香(ドウジ フミカ)です。って1年は全クラス受け持ってるからみんなは知ってるわね。」 今思ったが、AからFまで6組もあるのに全クラス受け持ちは結構すごいなと思う。 ・・っと、最後は俺か。 「えー、中島康孝!一応、部長ということらしい。よろしく!」 こうして助っ人部はこの学校の倶楽部として成立した。 成すがまま、流されるがままクラブが作られ、部長になってしまったが これからこの助っ人部でどんな出来事が起こるのだろうか。 あまり良い予感はしない・・・・・・。 (拙者も自己紹介したかったでござるよ!) >>第7話に続く |