人助けの男 第5話「新設!助っ人部(前編)」



  「あんたもっと人助けしなさいよー」

 日曜の夕方。自分の部屋で漫画を読んでいると突然友恵が部屋に入ってきてそう言った。

  「なんだよ、急に。っつーかどこ行ってたんだ? 昼過ぎから急にいなくなって」
  「今月からあるのよ、総会が」
  「総会? なんの?」
  「あたしが出る会っていったら人助け神の総会に決まってるでしょ!」

 そんな堂々と言われても「知らねーよ」としか言えないんだが……。
 しかもムスッとした顔でこっちを見ていやがる。

  「なんかえらく不機嫌そうじゃんか。……その総会とやらで何かあったのか?」

 そう言うと友恵は「あんたのせいよ」と言わんばかりに俺を睨み付けてきた。

  「あのね……、今日総会で月に一度の成績発表があったのよ」

 今の一言で友恵が何を言わんとしてるのか大体わかった。
 どうせ人助けの成績が悪いとかそういう話だろう。あえて口は挟まないが。

  「それで、私たちの成績は先月と今月半ばまででエネルギー結晶7つ」
  「そのぐらいかー。一週間に一度のペースで母さんの手伝いとかしてるぐらいだしな」
  「そのぐらいかーじゃないっ! 少ないのよっ! 全体で5位よ! 5位!」

 5位ってなかなか良いんじゃないか、とは思ったが人助けの使いが10人ぐらいしかいなかったら
 半分ぐらいの順位だ。決して良い順位じゃない。……ここは反論する前に全体で何人いるのか聞いてみるか。

  「お前みたいなのは全体で何人いるんだ?」
  「27人よ。それで8人いる同率5位のうちの一人」
  「つまり……5位の後ろは13位か。それでも一応前の方じゃん? 同率が8人いようが、5位は5位だ。前から5番目だぜ? 良いじゃん」
  「全然よくない!」
  「なんだよ~。友恵さんは俺にもっと働けと言うんですかねえ」
  「あったりまえじゃない! 私の面子にかけてもっとエネルギーを稼いでもらうわよっ!」

 てめーの面子なんて知るか!と言いたい所だが、口喧嘩するとさらに面倒くさくなるしな……。
 ちょっと反抗する程度に収めておく。友恵の足を蹴るとか。えいっ。

  「やめなさい」

 俺の反抗は軽くあしらわれてしまった。

  「あ、ちなみに4位がエネルギー結晶8つ、3位が10個で僅差なのよ。ちょっとがんばればすぐに上位は狙えるわ」
  「へぇ~、それぐらいで友恵のお小言が無くなるんならやってやってもいいけど」
  「お小言言うなっ! ……ただ、驚くべきはここからよ?」
  「何だ? もったいぶって」
  「なんと……! 1位は52個もエネルギーを稼いでたのよ!?」
  「ご、ごじゅうに!?」
  『それはすごいでござるな……。康孝殿とは大違いでござる』
  「うわおっ! 普段喋らないから忘れてたよ……侍さん」

 元旦から俺に絶賛とり憑き中な武士の幽霊さん、通称侍さん。
 普段は姿を消して声も発さないから、突然喋られるとビックリする。

  「私はいつも見えてるからそんなことはないけど……って、話が逸れた逸れた」
  「2位はどうだったんだ?」
  「15個よ。2位とも圧倒的な差をつけてる……。私の任務が始まってから今日の初総会まで約一ヶ月半。毎日1回人助けしてるペースね」
  「うへぇ……なんじゃそりゃ……。どんだけ意欲的なんだ、そいつら」
  『その者達もお二人と同じような関係なのであろう? どうやって52もの“えねるぎぃ”を集めたでござるか?』
  「詳しくはわからないわ。結果は人助けの神に献上したエネルギーの個数しか発表されないから」
  「じゃあ1位は無理だな。あきらめるか」
  「とりあえず2位が目安だけど……、やっぱ私は1位を狙いたいのよ」
  「だって52だぞ。ほぼ毎日人助けとか無理だろ、絶対!」

 俺は一週間に一度のペースで母さんの手伝いをしているが、母さんへの手伝いをする頻度は程々にしておけと友恵に釘を刺された。
 なんでも、手伝いが日常化したら感謝される気持ちが薄れて人助けとして成立しなくなるから、ということらしい。
 だから毎日親の手伝いでエネルギー稼ぎ、というのは実質不可能ということになる。
 できたとしても、一回の総会で結果が出せるだけだ。友恵は細く長く、母さんからエネルギーを稼ぐつもりらしい。

  「ともかく! 次の総会は2月の第三日曜日だから、それまでにジャンジャン稼ぐのよ。毎日人助け2回ペースとかで」
  「そんなに人助けできりゃ今まで苦労してないって」
  「やる前から諦めないでよ! 一番上を目指そうとは思わないのっ!」
  「はぁ……そんな気概があるんなら、部活でもやって頑張ってるっつーの」


  「……待って、あんた帰宅部なの?」


 俺の一言に反応したのか、友恵が静かに問いかけてきた。

  「え、あぁ……。知らなかったのか? いままで放課後すぐ帰ってただろ」
  「…………良いこと思いついたわ。ふふふふふ…………」

 何か嫌な予感がするが、聞いてもはぐらかされそうなので、その時は何も聞かなかった。


≪―――次の日の放課後―――≫

  「さぁ、さっそく部員集め開始よ!」
  「は……? 何の?」
  「何って……、助っ人部のよ!」
  「はぁ!?」

 まさか俺が部活やってないって聞いて、そんなこと考えてたのか!?
 つーか助っ人部って何だよ、助っ人部って!? そんなのに入りたがる奴なんているのか!?


  「入る入る入る! その助っ人部とやらに入ってやるぜ!!」

 ……この男がいたか。もちろんそいつは友恵にベタ惚れの柳沢だ。
 いままで見てきた様子からじゃ、友恵の誘いは断れないだろう。案の定だ。

  「柳沢お前、確か軽音楽部じゃなかったっけ」
  「軽音楽部の幽霊部員だ! いてもいなくてもかわんねーだろ! っつーわけで俺は助っ人部に入るぜ!」
  「はい、これで3人ね。それじゃあとはクラブ宣伝用の張り紙を作りましょうか」
  「ちょっと待てよ友恵。大体助っ人部ってどんな活動するんだよ?」
  「え? ハァ~、名前から察しつかないかな~」

 ヤレヤレといった様子で首を振る友恵。ちょっとムカつく……。わかんねーから聞いてんだよ。

  「助っ人部とは、助っ人をする部活です!」
  「まんまだし!!」
  「まんまよ! まぁ、助っ人っていうか人助け全般ね」
  「いいねぇ、その献身的な姿勢! さすが友恵ちゃんだ!」
  「柳沢、お前ちょっと静かにしろ! ってか先生に許可はもらったのか? そんなに簡単にクラブが作れると……」
  「あら。私がどうやってこの学校に入ったのか忘れたのかしら」

 ……そういえばこいつはこの学校の色々な人物の記憶を弄って無理矢理編入してきたんだった。
 (編入というより、4月の入学式からいたことになってるらしいが)
 そんな友恵に部活動1つ新設するぐらい、造作もない事なのかもしれない……。

  「で、でも! 部室はどうするんだ!? この高校は部活の種類が多いから空き教室なんてないぞ!」
  「……1つ、なくなりそうなクラブあったわ」
  「え……」
  「あー! バスケ部か! 3年が卒業するってのに下級生が一人もいないから廃部直前って言われてるやつ!」

 柳沢がすかさず反応した。そういえばそんな話をどこかで聞いた気がする。

  「ね? そのバスケ部を[ピーー]して無くして、そこに助っ人部が入れるように手配したわけよ」
  「お、お前なぁ……。来年の新入生がバスケ部入りたがってたらどうするんだよ」
  「潰れそうな部に入学前から入ろうとしてる物好きはいないでしょ。やりたかったら自分で作ればいいし。今の私みたいに!」

 誰しもそんな反則技を使えたら苦労しないっつーの……。

  「それに、バスケットボール部から助っ人部になるなんて、洒落が効いてると思わない?」

 柳沢はまるで肩叩きマシンの如く首を振って頷いているが、そんな洒落っ気は要らない。

  「それでね、部員が最低でも5人必要なんだって。あと2人必要なのよ」
  「それこそ[ピーー]して部員を集めりゃ良いじゃないか」
  「それはダメ。もしその人が助っ人部に入ったのがきっかけで人生が変わっちゃったら責任がとれないもの。
   そういう事象が起こりうるような事で[ピーー]は使っちゃいけないのよ」
  「あのー……、さっきから言ってる[ピーー]って、一体なに?」

 柳沢が口を挟むが、友恵が「柳沢君は気にしないで♪」と言うと本当に気にならなくなった様子で「はーい」と言ってデレデレと微笑んだ。
 友恵の存在が柳沢の人生を変えちゃってるんじゃないのかという疑問はさて置いて、どうやら友恵は助っ人部を本気で作ろうとしてるらしい……。
 もちろん俺は既に部員として数えられているので、逃げることはできない。
 なんか友恵が来てからというもの、事の流れに流されている気がする。

  「それじゃ今から教室で宣伝張り紙作りましょ」


  『ここなら誰もいないから拙者も手伝えるでござるな!』

 誰もいない放課後の教室で侍さんが姿を現した。

  「うわ! あの時の幽霊!!」

 柳沢がビックリしているが、自分の中で存在を認めているようで、変に取り乱したりはしていない。

  「まぁ、こういう時のために侍さんを仲間にしたんだしね。協力してもらいましょ」
  「え……幽霊なのに物触れんのぉ!?」

 柳沢が大袈裟なぐらいに驚く。……俺も初めて知った。最近(?)の幽霊はすごい。
 この後4人で作業をし、先生に許可をもらった(と友恵が言っていた)いくつかの場所に張り紙を張って帰宅した。
 しかし3学期始まって部活に入ろうとするやつは果たしているのか?
 新入生もあんまり期待できそうに無いし、俺はこのまま助っ人部がお流れになればいいなぁなんて思っているが……。

 友恵のことだから、強引にでも成立させそうな気がする……。俺に逃げ場はもうない!?

  >>第6話に続く