人助けの男 第3話「初めて(?)の人助け」 「ねえ、今日も人助けしないの?」 今日も放課後すぐに学校を出た俺……プラス双子の妹。 その妹さんが、校門を出た時にそう話を振ってきた。 「そんなうまいこと困ってる人見つからないって」 「悠長なこと言ってないでさー。いいの? 死ぬよ?」 「うるせー」 このうるさい双子の妹……になっている女が家に来てからすでに3日経過していた。 しかしそうそう困っている人など見つけられず、未だに一度も人助けと呼べる人助けはしていないのが現状だ。 まったく、なんでこんなことになったのやら……。 妹……友恵は俺と同じ学校、同じクラスに通っている。 母さんや柳沢と同じように、うちのクラス全員、友恵が俺の双子の妹だと認識していた。 先生はもちろん、図書室の司書さんも、学食のおばちゃんも、果てには清掃会社の人まで友恵と知り合いだった。 念入り深いというか、ちょっとやりすぎじゃないか? 今のところ、記憶の操作ぐらいしかしてないが、友恵は一体どこまでのことをやれるんだろう。 ……一週間人助けしないと死ぬってのもあったか。これは嘘か本当かわからないが。 「見つからないんなら自分から探しましょーよー」 「そんな押し売りみたいなことできるかよ」 「押し売りじゃないわよ、困ってる人見つけて力になってあげるだけなんだから」 困ってる人を探してる時点でなぁ……。なんか純粋に良い人じゃないみたいじゃん? 別に良い人ぶろうとしてるわけじゃないんだけど。どうにも気が進まない。 「はじめの一週間で死なれたら、せっかくの記憶操作が無駄になっちゃうんだけど」 「うるせーなー、もう。大体人助けってどれくらいのレベルから人助け成立なんだ?」 「細かいわねー! とりあえず困ってる人の悩みを解決すりゃいいんじゃないの?」 アバウトだなオイ。人助けの神の使いならそれぐらい把握しておけよな。 「……そういえば喜びの感情を結晶化云々言ってたよな。単純に相手を喜ばせられればいいのか?」 「んー? やっぱ、人助けじゃないとダメでしょ。相手を喜ばせるだけでいいんなら、人助けじゃなくてもいろいろあるじゃない?」 「いろいろ、ね」 「例えば、芸人とか。いろんな芸を見せてお客さんを喜ばせるけど、それって人助けとは違うじゃない」 「む、確かにそうだ」 「ようするに、人助けしなきゃダメってこと。さーさ! 困ってる人を見つけるわよ!」 「だからそれが見つからないんだっつーの!」 はぁ、これじゃこっちが困ってる人じゃないか。 どこかに大きな荷物を持って横断歩道を渡れないお婆ちゃんでもいないかなー。 そんなこんなで友恵に文句を言われながら、その日も人助けをできずに終わった。 次の日。 「おっす、中島兄妹!」 学校付近の朝の通学路、後ろから声を掛けてきたのは柳沢だった。 「それにしても仲いいよな、二人とも。登下校、毎日一緒じゃん」 「しょうがないだろ、道一緒なんだからよ」 俺は毎朝、友恵と一緒に通学している。 普通は家を出る時間帯とかずらしたりするんじゃないのか、と思ったりもしたがそんなこと俺が知る由もなかった。 だって友恵のやつ、早く出ようとしても着いて来るし、遅く出ようとしても待ってるし。 「柳沢君、おはよう」 ワンテンポ置いてから友恵が挨拶をした。 キャラ作りなのか元々の性格なのか知らないが律儀な奴だ。 「おはよう友恵ちゃん! いや、しかしうらやましいなぁヤス! 俺も妹欲しいぜ!」 俺は友達からは ヤス というあだ名で呼ばれている。 理由は単純に名前が康孝(やすたか)だからだ。 しかし妹がいない奴に限って「妹欲しい」だのなんだの言うが、実際にいたらそんなに良いものでは無いんだぞ。 いや、俺もこの間までは妹なんていなかったんだが。自分の部屋にいられると正直うっとおしいんだよなぁ。 「あのさ柳沢君……、もうちょっと静かにしてくれない?」 呆れ顔で友恵が言った。 「え? 何で?」 「何でもクソもないだろ。朝っぱらから妹、妹、叫んでるやつと知り合いだと思われたくないぞ普通」 「いや、単純にうるさいだけだけど」 「マジか! ごめん友恵ちゃん!!」 「だから、うるさいって……」 言ったそばからうるさいのがこの柳沢という男だ。 なんだかんだで学校に着き、時間は過ぎて昼休み。 図書室で漫画を読んでいると、一緒にいた柳沢が突然話しかけてきた。 「なあ……、今日ヤスんち行っていいか?」 「は? なんで?」 「いや、お前俺より勉強できるだろ? いつもクラスで十位ぐらいじゃないか。」 「勉強教えろってか?」 「その通りだぜ!」 なんでこいつがそんなことを言ったのかというと、今が期末試験一週間前だからだ。 ……しかしこれは願ってもいないチャンスかもしれない。 こいつに勉強を教えて感謝して貰えれば、人助けになるんじゃないか……? 「わかった、今日うちに来いよ」 「おしっ! もちろん友恵ちゃんも一緒だよな!?」 「ん? あ、ああ。そりゃ当然いるわな」 こいつ友恵目当てかよ……。 別に大して綺麗なワケでもないのに、目当てにするなんて物好きな奴だ。 そして放課後、柳沢は一旦家に戻るなんて面倒なことはせず、そのまま付いてきた。 「ここがヤスの家か? 一軒家いいなあ、オイ!」 「お前、うちに来るの初めてだっけ?」 「……ありゃ? そういや1学期の期末にも来たような記憶が……。ま、いっか!」 まいっかで済ますような事ではない気がするが、柳沢はこういう男だ。 しかしどうしたんだ、柳沢のやつ。……友恵がした記憶操作の影響か? 「まあ、記憶操作も万能じゃないから。たまには今みたいに記憶が乱れることもあるわよ」 友恵が小声で俺に囁いてきた。 下手したらとんでもないことになるじゃないかそれ……。 しかし俺にはどうする事も出来ないのでこれ以上は気に留めないことにした。 「お! スマブラやろうぜ!」 柳沢が俺の部屋に入るなり見つけたゲームを見て言った。 「勉強しに来たんじゃなかったのかよ!」 「いいじゃない。スマブラの後やれば」 友恵がまた適当な事を言った。お前は俺に人助けさせたいんじゃなかったのか? そんなこと言うと調子に乗って結局勉強やらないに決まってる。 柳沢はそういう男だ。 「話がわかる男だねぇ友恵ちゃんは!」 「女なんですけど」 「そうだったーー! ごめん!」 本当に騒がしい男である……。っつーかさすがにツッコミ待ちだろ、今のは。 「私やっぱりこいつ苦手だわ……」 友恵が小声で俺に言ったが、そんなこと俺に言われても困る。 結局スマブラやって柳沢は帰った。 「あーあ。やっぱりこうなった」 「ごめんごめん。でも楽しかったからいいじゃない?」 「ちっともよくねぇよ! 人助けのチャンスかと思ったのによぉー」 「あ、そういうことだったの!? くっ……私としたことが……」 そもそも意識してなかったのか。通りで適当だったわけだ……。 「ったく~。せめてサポートぐらいしてくれよな~」 「わかったわよ、もう! 次からは……」 と、友恵が反論しようとしたその時――― 「キャアーーー!!!」 突然、母さんの悲鳴が聞こえた。 「な、何だ?」 急いで母さんのいる1階に降りると、廊下で慌てている母さんを見つけた。 「どうしたの?」 友恵が話しかけると母さんは居間の方を指差し…… 「ゴキ○リ! ゴキブ○がでたのよ~!」 ……と、騒いだ。 もうすぐ四十路だというのに○キブリごときで「キャー」なんて悲鳴を上げて、今も落ち着きなく騒々しい。 いや、ゴ○ブリが苦手なのはわかる。もちろん俺もゴキ……は嫌いだ。母さんの血を継いでるだけのことはある。 「うわ、私もゴキ○リ苦手なんだけど……。あんたやっつけてよ」 なんで俺が……とも思ったが、別に今日初めて家にゴキが出たわけじゃない。こういうのはいつも俺の仕事だ。 新聞紙を棒状に丸めて叩く……と処分が楽なのだが、有効範囲が狭い+威力が低いので、 ここは素直にスリッパを使用する。スプレーは効かなかったりして逃げられると困るので、物理攻撃が確実なのだ。 そんなこんなで、攻撃を外したり、隙間に入られたりしたが、数分間の死闘の末、なんとか退治できた。 「ありがと~! やっぱりたかちゃんは頼りになるわね~」 母さんはホッと一安心といった感じで台所に戻って夕飯の支度を始めた。 「お~、出た出た」 友恵が中くらいのビンを見てつぶやく。 「ん? 何が出たんだ??」 「せ・い・か!」 「せいか?」 「だから、人助けの成果よ!」 ……あ、そうか。あれも人助けのうちなのか。 いつもやってることだから気づかなかったけど、困ってる母さんを助けたことになったんだよな。 ……サンキュー、ゴキ○リ……。まさかお前に感謝する日が来るとは思わなかったぜ……。 「で、そのビンは?」 「このビンに結晶化したエネルギーが貯まっていくのよ。この黄色い飴玉みたいなの」 「へええ……。ん、って事はこれでノルマクリアだよな!? 俺死ななくて済む!?」 「寿命が一週間延びただけよ♪」 ……………………。 「…………永続っすか」 「永続です」 俺は背中に嫌な汗をかかざるを得なかった。 >>第4話に続く |