人助けの男 第1話「突然の来訪者」 俺は今、つけられている・・・・。 尾行されているということだ。 決して俺が自意識過剰なわけではない。 俺の名前は中島康孝(ナカジマ ヤスタカ)。16歳の高校1年生だ。 学校の部活動に参加してない帰宅部の俺は、今日も今日とてさっさと家に帰るのだ。 帰り道の途中で友達と別れ1人になった時、ふと後ろから変な気配がした。 後ろをチラッと見ると女の子が一人。顔に見覚えはないが服装からしてウチの学校の生徒だろう。 最初はただ単に帰る方向が同じなだけだと思っていた。 駅に付き、ホームで電車を待っているとあの女の子が階段を上がってくるのが見えた。 熱心に切符を見ている所から、切符の発行番号の4ケタの数字を足し引き掛け割りして10にするゲームをやってるのだろう。 電車が来たのでそれに乗ると、少し離れた場所で電車を待っていた女の子も俺と同じ車両に乗った。 電車内で時々視線を感じることがあったが、感じた方に顔を向けるとやはりあの女の子がいた。 しかし何度か顔を向けたものの、ずっと切符を見つめている姿しか見れなかった。どんだけ難問なんだ。 俺が電車から降りると、その女の子も一緒の駅で降りた。 ここで俺が思ったことは2つ。1つは俺と同じ駅で降りるにも関わらず一度も顔を見たことが無いことだ。 すでに2学期も終わりが近いのに、初めて偶然同じ時間帯というのはあり得るのか。 もう1つは電車通学なのに定期券を持ってないこと。毎朝切符を買うのは面倒じゃないのか? 駅から出て家の方向に歩きだすと、あの女の子も同じ方に歩いてきた。 ためしにコンビニにも入ったが、やはり同じコンビニに入ってきた。 俺が買い物を済ませてコンビニを出ると、女の子は少し間を空けてコンビニから出てきた。何かを買った様子はない。 さすがにこれは尾行されてるだろうと確信した。 そして今に至るわけだが、もうすぐ俺の家も近いのにまだ一定の距離を保って後ろから付いてきていた。 俺なんかを尾行してなんの得があるのかまったくわからない。 罰ゲームかなにかで尾行してるのだとしたら、非常に不愉快だ。 ついに俺の家まで来てしまった。さすがに家の中まではついてこれまい。 (ちなみにうちはマンションじゃなくて2階建ての一軒家だ。) 俺は急いでいると悟られない程度に急いで家の鍵を開けて中に入った。 ふぅ、鍵もすぐに掛けたしこれで一安心だ。 「あ、康孝ちゃんおかえりなさい。もうそんな時間なのね。」 居間から母さんが顔を出したので俺は一言「ただいま。」と言って靴を脱いで家に上がった。 もう高校生なのに 康孝ちゃん はやめてほしいものだ。 ・・・と思ったその時。 ガチャガチャ 家のドアが音を立てた・・・。 正直に言って、俺はこの時かなりビビった。絶対あの女だ・・・! 「あら~?誰か来てるのかしら?」 冷汗をかいてドアを見ている俺を尻目に、母さんはカギをあけて扉を開いてしまった・・。 何を考えているんだこの母親は・・! インターホンを鳴らさずにドアをガチャガチャやる相手に何の警戒もせずドアを開けるなんて!! 普段からふわっとした性格だと思っていたが、さすがに不用心すぎるだろう・・。 扉を開いて1秒も立たずにそんなことを考えていた俺だが、扉を開けた先にはやはりあの女の子がいた。 「あら?」と言って頭から ? を浮かべる母さん。 そしてワンテンポおいてから母さんが言った言葉を聞いて、俺は自分の耳を疑った・・。 「おかえりなさ~い。」 ・・・なんだ、おい。誰に対してだ。まさかその女の子にいってるんじゃあないだろうな・・? 「お母さん、ただいま。」 こ、この女・・! ただいま だけじゃなくてわざわざ お母さん も付け加えたぞ・・! 本当に意味が分からない。この女の子がうちに居候してた記憶もないし、ましてや顔も知らないんだ。 困惑している俺に向かって母さんが言った。 「康孝ちゃん。友ちゃんがすぐに帰ってくるってわかってたのにどうしてカギを閉めちゃったの?」 ・・・は?と、友ちゃんって誰やねん・・。頼むからもう俺を混乱させないでくれ・・。 「あなた達いつも2人仲良く帰ってきてるじゃない。喧嘩でもしたの?」 ・・これはおかしい。絶対におかしいぞ。 俺はこんな女と仲が良かった覚えはない。というか顔すら知らない。 「喧嘩なんてしてないよ。帰る途中からなんか康孝の様子が変なの。」 女の子は俺の事を気安く康孝なんて呼んでいるし・・。 とりあえずこのまま黙っていると一向に状況が飲み込めない。そこで俺は核心をつく質問をしてみた。 「ちょっと待て、お前誰だよ!」 ・・・・・・数秒の沈黙のあと、女の子が母さんに言った。 「ね、ちょっとおかしいでしょ?」 頭がおかしい人にされてしまった。何故俺がこんなことに・・? 「いったいどうしたの康孝ちゃん・・。自分の妹を忘れるなんて・・・。」 ・・・今、何とおっしゃいましたかお母様。まさかまさか。俺は一人っ子ですよ? 「俺は高校1年だぞ!俺の妹だとしたらおなじ学校の制服を着ているのはおかしいだろ?」 「やだ・・・重傷ね・・。いったい何があったの・・?」 う・・。母さんがすごい心配の目で俺を見ている・・。 「よそ見して歩いてたら、すぐ近くの電信柱に頭をぶつけちゃって・・。それからああなの。」 そんな覚えはない。頭も痛くない。 「まぁ!大丈夫!?どこぶつけたの!?血、出てない!?」 血が出てないのは見れば分るだろうに。 ・・・しかしこの母親、過保護である。息子ながらにそう思った。 「あたしが部屋で応急処置するから、部屋つれてくね。」 女の子が俺の手を引いて2階に上がっていく。 2階には父親の書斎と俺の部屋があるが・・・どの部屋に連れていくつもりだ? 普通に考えて俺の部屋だろうが、そうなるとなんでこの女は俺の家の間取りを知ってるんだ。 そんなことを考えているうちに俺の部屋の前まで来た。 「ここ、あなたの部屋でしょ?」 その通りだが・・、やはりこの女は俺の妹なんかじゃない。俺はおかしくなんかなかった。 「お前は一体誰なんだ?」 「質問に質問で返すとテスト0点って知ってる?まずは私の問いに答えなさいよ。」 何を言ってるんだこいつは・・。しかし話が進まなそうなので素直に答えることにする。 「・・ここが俺の部屋だよ。」 俺は部屋に入って早速聞いた。 「それで・・・、お前は誰だ?」 「あなたの双子の妹よ?忘れたの?」 双子の妹・・?ああ、そういう設定だったのか。それで同い年ね・・。 「そっちじゃない。・・じゃあ質問を替える。何が目的でこんなことになってるんだ。」 「あなたの妹になった理由?」 「それもそうだが、妹としてこの家に入り込んだ理由だ。」 ・・・・数秒の沈黙の後、女の子が口を開いた。 「・・・人助け。」 「はい?」 「あなたは一週間以内に人助けをしないと死にます!」 は・・・はぁあぁあぁあぁあああぁあ!!???? >>第2話に続く |