1-0 ~プロローグ~
夢を見た。
それは変な夢だった。
夢なんて大概変なものだという一般論は置いておくにしても、それは変な夢としか言い様がなかった。
《聞こえるか、聞こえるか少年》
謎の“モヤ”から声が聞こえてくる。
具体的に俺が呼ばれているという証拠は何も無かったが、何故かその声が自分に向けられたものだと確信していた。
そうして俺は肯定の言葉を発する。
《上手くいったようだな………いや、こちらの話だ。気にすることはない》
“モヤ”からの声が妙に頭に響く。
些細なことは気にしていられなかった。
しかし謎の声は突然、こんなことを言い出した。
《……君は恋愛アドベンチャーゲームというものをやったことがあるかね?》
突拍子もない質問。
しかも雰囲気に似合わないにもほどがある、俗にまみれた質問だ。
覚醒状態であればツッコミのひとつでも入れたであろう。
しかし夢の中の俺はなんの疑いもなく、その質問に応じた。
「何本か……」
《ほう……まったく知識がない、というわけでは無さそうだ》
実際は2,3本、興味を示してやってみた程度だ。
慣れているというようなレベルではない……と思う。
《ちょうどいい。君にはこれから恋愛アドベンチャーゲームの主人公になってもらおう》
…………ははは。なにを言うかと思えば。
本当に変な夢だ。本当に。
そこで俺は夢から覚めた。
いや、“寝ていた身体を起こして布団から飛び出しただけ”で、正確には覚めていないのかもしれない。
なぜなら…………
《おはようございます! さぁ、早くしないと学校に遅刻しますよ!》
まだこの変な夢が続いていたからだ。
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